二年の節目の日

今日も朝起きたときから
リビングの温度計は
30度を超えている。

今年の夏の強烈な猛暑に
暑さに強い思っていたのが
自信がぐらつき始めている。

９時、遅い朝食になり、
そうだ、今日は、午前8時以降は
食べ物をカラダに入れては
いけないことに気がつく。

今日は、術後二年の
造影剤ＣＴの日なのだ。
お腹がすいて
朝ごはんを食べたい衝動に
かられながら、
一杯のお水をゆっくりゆっくり
胃の中にいれていく。

午後になり、病院にいく準備をする。
診察券や保険証の準備
そして、むだ毛の処理も
忘れてはいけない。
暑くてしばらくご無沙汰の
お化粧もやんわりと塗っていく。

今日の検査で二年の節目となる。
おちついたものだ。
癌患者となって、
毎月毎月病院に行くわけだけど
それも毎月の行事と化して
今日のような日も
全く緊張感の無いことに
ちょっと驚いたりする。

診察予約券に
「１時40分まで受付を済ませてください」
と記されていたけど、病院に飛び込んだのは
１時４５分を過ぎていた。

ほどなく処置室に通され、
前開きの診察着にきかえる。
手術前にも同じように
造影剤ＣＴで全身検査をしたことが
鮮やかによみがえってきた。

あのときとは病院がちがう。
あのときとは緊張感がちがう。
あのとき私は、すでに癌が
全身に広がっているような錯覚に
襲われながら、死さえも予感して
恐怖に震えながら検査を受けていたのだ。

看護師さんと、会話をかわしながら
体温と血圧の測定をすませ
点滴の針をさす。

笑いながら看護師さんは
どこに刺そうかと私の
左手をたたいたり
なぞったりしている。

左手の手首に近い血管を
めがけて、すう～っと
針が進んでいく。
採血時より、ながくながく
針を刺す。

「このあいだ、主人が造影剤ＣＴして
この針を刺す段階で貧血おこしたんですよ～」
なんて、ぺらぺらとおしゃべりしながら
貴重品を持ってレントゲン室に移動する。

最初に造影剤無しで撮影
造影剤入れると、
二年前と同じで
のど元と下腹がか～っとあつくなる。

撮影終了。

点滴も終わり、
あとは診断結果。
「呼ばれるまで待っていてください」と
言われ、待合にでようとしたら
入院したときの看護師さんが近づいてきた。

「もう二年たちました」
笑顔で話しかけると

「そうですね、早いですね、
はるさんの手術は夏でしたよね
あの年も、暑かったですよね・・」

彼女の言葉を聞きながら
なぜかわからないけど
胸の奥から感情が
こみ上げてきて
涙がポロポロこぼれた。
涙がふいてもふいても
こぼれてきて
私はどうしていいか
わからなくなってしまった。

涙をふいて、待合に座って
持ってきた文庫本を開く。

もし、再発していたら
これからまた
治療が始まるんだわ、
今度は抗がん剤免れないし、
会社もやめなきゃいけないかも
今の生活は維持できるのかしら、
夫や親にはなんていえばいいのかしら、

緊張もせず、不安もなく
検査をうけたにもかかわらず
待っている２０分の間
私はまぎれもなく
癌患者なのだと
改めて思ったりした。

呼ばれて、診察室のドアをあけ
椅子に座るか座らないかで
先生が、いつものかわらない
やさしいトーンで
「大丈夫でしたよ」
と言われた。

病院をでたら、乾いた風が吹いている。
朝から何も食べていない胃が
ぐうぐうと食事を要求し始めた。

二年の節目を迎えたけど
これからまた私の闘いは続く。
死ぬまで続く。